ギンヤンマの終齢幼虫 カップ 網掛けスポンジ バット 半ペンレンガ 釣り用ミミズ ハサミ ピンセット
・ギンヤンマのヤゴを授業中に観察できるようにする。
・複眼が黄化したら冷蔵保存し,翌日加温する。
・ギンヤンマのヤゴを,子ども達の目の前で羽化させることができる。
昨年の夏,No.949「プールでギンヤンマに産卵させて,大量のヤゴをGETしよう!」と人工産卵床を開発し,数千もの卵を産卵させることに成功しました。その後は放置していましたが,予定では数百頭のヤゴをGETできる・・・はずでした。 6/12,プール掃除前の水抜きが始まりました。『バカ長』を履き,期待に胸を膨らませて,2本の水網でプールの底を掬いました。しかし,ギンヤンマのヤゴどころか,タイリクアカネやシオカラトンボのヤゴ,マツモムシなどの水生昆虫まで,姿が見当たりません! なぜ?どうして?WHY? プール管理の担当者に聞くと,掃除の労力を軽減しようと,秋口に『藻の発生を抑える薬』を撒いたというではありませんか。お・お宝が・・・全滅か・・・大いに落胆しました。 しかし,流石は自然の底力! 全滅ではありませんでした。網で救うこと3日間で,26頭の終齢幼虫を得ることができました。 さらにプール掃除当日,清掃業者の方に,「できたらヤゴを・・・。」とお願いしておいたところ,心優しいプロ! 私が掬い残した16頭をGETすることができました。感謝です! 合計42頭のヤゴ(ほぼ終齢幼虫)で,『羽化抑制法』による『授業中にギンヤンマが羽化する瞬間を観察させるミッション』に取り組み始めました。 ヤゴはプラカップで個別飼育し,餌は釣り用のミミズを与えました。朝イチでカルキ抜きの水に交換し,ハサミでミミズをカットして与えます。そうしないとヤゴには手強いし,外に逃げ出すことがあるからです。 下唇(かしん)の動鈎(どうこく)で獲物を挟んで固定し,どんどん食べていきます。下唇は,とても便利な機能を発揮しています。 夕方,糞と食べ残しを掃除して再度水換え,の繰り返しです。水温が上がり腐敗しやすくなったので,食べ終わるとすぐに水換えをすることにしました。 ヤゴは終齢ですが,羽化までには,まだ2〜3週間かかります。 まず,離れていた複眼が,サングラスのように真ん中で接合します。そして,羽になる翅芽(しが)の厚みが増してきます。 次に,餌を食べなくなります。摂食停止です。 翅芽の厚みがさらに増していきます。複眼の色合いや,腹部上面の色合いも変化していきます。 餌を捕獲するのに使っていた下唇の内部組織が,成虫の下顎になるべく退行していきます。退行は,下唇前部の『下唇前基節』から始まり,下唇後部の『下唇亜基節』にまで及びます。最終的には筒状に丸まり,先端に毛が生えた状態になります。 この姿が,羽化日特定の判断基準です。 ヤゴは急速に移動する際,腹部先端から直腸鰓に吸い込んだ水を吹き出し,ジェット推進します。 ヤゴの呼吸は,直腸鰓による鰓呼吸です。しかし,羽化時には上陸するため,気管呼吸に変わります。そこで溺死しないよう,摂食停止のヤゴを,半ペンレンガを入れた別の容器に移しました。 羽化予定日の個体の複眼は,暗緑色です。登り棒を与えると,その日の夜に上陸して羽化します。 しかし,登り棒を与えない『羽化抑制処理』にかけると,夜には複眼の色が暗緑色→黄色に変色していきます。そのまま夜を迎えさせると,うまく羽化できずに死んでしまいます。 それを避けるため,複眼が黄変したヤゴ(眼が血走りならぬ黄走りヤゴ)を冷蔵庫(約7℃)に入れて保存しました。羽化活動を抑制し,翌日まで体力を温存させておくためです。 翌日の午前中に,網掛けスポンジを立てた大きなカップに水ごと移します。 室温で体が温まると,羽化直前だったヤゴは体内活性を取り戻します。そして,羽化しようとしてスポンジを這い上がります。 スポンジの上端につかまります。時折,腹部を振り上げてスポンジに叩きつけるようにします。これは,全肢の鉤爪が,しっかり体を固定しているか否かを確認するための必須作業です。 体を反らして動かなくなったら(定位)羽化準備完了です。 しばらくすると背中の殻が裂けて,成虫の胸部が姿を現します。頭胸部を斜め上に引っ張り上げるようにして,上体を抜き出します。 その際,トンボの脚が,ヤゴの殻の中をスルスルと抜き出されていく様子が分かります。まだ固くないので,まるで茹で麺のようです。 頭胸部が抜けてしまえば,羽化は成功したも同然です。上体を剃り返して逆さになりながら,全脚を抜き出します。白い糸状のものは,気管内側の壁です。 しかし,頭部を抜き出せず,羽化に失敗する場合があります。それは,6本の肢の全てが固定されていない場合です。 ヒトは服を脱ぐ場合,袖口を片手で固定してから腕を抜きます。そうしなければ服を脱ぐことはできません。 それと同じで,ヤゴの肢が1本でも固定されていないと,殻から体を抜き出すことができないのです。 そのために,何度も腹部を振り上げて,体がしっかりと固定されているかどうかを確認するのです。 電子黒板に映して,子どもたちと観察しました。逆さになってから30分間ほど,脚が固まるまでぶら下がったままです。 なんの前ぶれもなく,クイッと上体を起こして抜け殻につかまりました。そして,腹部を抜き出します。その時を待ちに待っていた子ども達から,思わず拍手と賞賛です。 足場を確認しながら,腹部の体液を翅脈に送り込み,翅を伸展させていきます。縮れていた翅がみるみる大きく広がっていきます。色は,半透明の白です。 翅が伸び切ると,色が透明になってきます。翅の伸展に伴って,腹部は細くなっていきます。翅はまだ柔らかくて,固まるまで1時間ほどかかります。 翅が固まると,翅を広げて細かく震わせます。飛び立つウォーミングアップなんでしょう。再び何の前触れもなく飛び立ちました。 子ども達と別れを惜しみながら,ギンヤンマを放して見送りました。 この実践は,28年前に私が開発した「ギンヤンマの羽化抑制法」です。他のトンボでもトライしましたが,材料が確保しやすくて羽化時間のコントロールができたのは,ギンヤンマとクロスジギンヤンマだけでした。 しかし,手間がかかるし成功率も低い(今回は40%)ので,その後長らく取り組んでいませんでした。久しぶりに教室で羽化を観察したラッキーな子ども達は,これで2クラス目になります。 細かなノウハウをかなり思い出せたので,来年も再びチャレンジしてみようと思っています。 【キーワード】 ギンヤンマの羽化観察(Observation of Dragonfly Emergence) プール内の水生昆虫(Aquatic Insects in the Pool) 人工産卵床の開発(Development of Artificial Egg-Laying Beds) プールの底の生態系(Ecology of the Pool Bottom) プール清掃と水生昆虫の影響(Pool Cleaning and Impact on Aquatic Insects) タイリクアカネやシオカラトンボのヤゴ(Larvae of Red Dragonflies and Damsel Flies) プールでのヤゴの掬い方(How to Collect Larvae in the Pool) ギンヤンマの終齢幼虫(Final Instar Larvae of Dragonflies) 羽化抑制法と授業への応用(Emergence Suppression Method and its Classroom Application) ヤゴから成虫への変態観察(Metamorphosis Observation from Larvae to Adult)
生物 | 生態 | 生命尊重 | 960 | 夏
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