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プールでギンヤンマに産卵させて,大量のヤゴをGETしよう!

  • プールでギンヤンマに産卵させて,大量のヤゴをGETしよう!

材料

発泡スチロール板など アルミ針金(1mm) ビデオカメラ 三脚 双眼実体顕微鏡 スマホ

内容

・ギンヤンマのペアに,プールで産卵させる。
・発泡スチロール板などの【人工産卵床】を鉄パイプに取り付ける。
・メスが,発泡スチロール板の水面下の部分に産卵することが分かる。

詳細

トンボの産卵方法には,様々なタイプがあります。よく見られるのが,ウスバキトンボのように,メスが飛びながら腹部先端を水面にチョンチョンと触れるようにして産卵する『打水産卵』です。 ギンヤンマは『植物組織内産卵』です。池などに生えている水生植物(抽水植物,浮葉植物)に留まり,メスが腹部先端の産卵管を植物組織内に差し込み,1つ1つ卵を産みつけていきます。 随分以前に,小学校のプールでギンヤンマに産卵させるため【人工産卵床】を開発しました。ギンヤンマを生物教材として活用するためです。ギンヤンマに産卵させるためには,プールに水生植物を植栽する必要があります。ホテイアオイを浮かべるのがお手軽ですが,準備に手間がかかります。 その代用として目を着けたのが,タコ焼きの舟です。水面に浮いているタコ舟に,ギンヤンマが産卵している様子を目撃したことがあったからです。タコ舟はしっかりしていますが,爪楊枝で簡単に穴が開きます。これをプールの金属パイプに取り付けたところ,産卵場所として気に入ってもらえたようで,大量の産卵痕が確認できました。 今回,久しぶりに追試をすることにしました。セットしたのはタコ舟ではなく,発泡スチロール板大・小と発泡トレーです。 ギンヤンマのオスは,メスの後頭部を腹部先端の上付属器と下付属器で挟み,連結したまま産卵して回ります。ヤンマの仲間で連結産卵するのはギンヤンマだけです。 【人工産卵床】にギンヤンマが産卵する姿を撮影するため,延べ15時間以上プールで張り込みを続けました。その間,ギンヤンマのペアが飛来したのは5回だけでした。 1,2,3回目にペアが留まったのは【人工産卵床】ではなく,プールの鉄パイプでした。鉄パイプはツルツルしていますが,汚れなどがこびりついていて足場になるようです。しかし,産卵菅を鉄パイプに差し込めるはずもなく,留まっては次,留まっては次へと場所を変えるだけで,じっくり産卵することはありませんでした。 結果的に,発泡トレーへの産卵は見られませんでした。表面がツルツルしていて留まりにくく,比較的硬くて産卵菅を差込みにくかったためだと思われます。 4,5回目の飛来時に,待望の発泡スチロール板への産卵が見られました。ただ,表側に留まったのは一度きりでした。多くは,裏側の鉄パイプにオスがしっかりと掴まり,下のメスが卵を産んでいくというパターンです。 発泡スチロール板は面積が比較的広いので,1回の産卵時間は40分以上に及びました。メスは腹部,胸部,そして頭部までも水に浸かりながら,卵を1つ1つ産みつけていきました。 【人工産卵床】を取り外してみると,鉄パイプを中心にして,左右に数百の産卵痕が扇型のように広がっている様子が見られます。 産卵痕が見られなかった発泡トレーを諦め,発泡スチロールを棒状にカットしたものと交換することにしました。5回目の飛来では,発泡スチロール棒にも産卵する様子が観察できました。鉄パイプに留まるだけでなく,発泡スチロール棒自体に掴まって産卵する場合もありました。発泡スチロール棒は面積が狭いので,大量に産卵させるためには,発泡スチロール板を取り付けた方が効率が良いようです。 プールでギンヤンマに産卵させるためには,発泡スチロール板の【人工産卵床】が有用であることが明らかになりました。棒状の発泡スチロールにも産卵しますが,面積が広い板の方が大量に産卵してくれるのでオススメです。 連結が外れたメス(単独産卵)の頭部を見ると,複眼が凹むほどの強い力で鷲掴みにされていたことがわかりました。オスが自分の子孫を確実に残すための術なのでしょうね。 1本の発泡スチロール棒から,数百頭のギンヤンマのヤゴが孵化しました。 産卵した発泡スチロールの一部をカットして,双眼実体顕微鏡(20,40倍)で観察しました。発泡スチロールの表面は意外にスカスカしています。メスの産卵管の先が尖っているので,簡単に差し込むことができそうです。卵は,奥の方まで斜めに刺さるように産みつけられています。 発泡スチロールの表面を少し剥がすと,卵全体が見えるようになりました。黒っぽい点が2つ見えます。これが幼虫の目の部分です。 孵化したては,薄い皮を被った細長い水滴のような形をしています。これを前幼虫といいます。卵から抜け出す途中で早くも脱皮して複眼や足が張り出し,細身の1齢幼虫になりました。カマキリと似ていますね。 しばらくすると,ほぼ透明だった1齢幼虫に黒い縞模様が現れ,可愛いギャングのような姿になります。裏向きになると,獲物を捕えるための折り畳まれた下唇が見えました。 ミジンコを与えると,1齢幼虫は下唇を使ってすばやく獲物を捕らえ,食べてしまいました。アップ&スロー動画では,下唇を伸ばして獲物を捕える様子がよくわかります。 ギンヤンマの1齢幼虫に,ミジンコよりも大きなイトトンボの1齢幼虫を与えると,これも食べてしまいました。このような食物連鎖を繰り返して成長していくのですね。 水泳指導の終わったプールは,半自然の閉鎖水域です。その生態系の頂点に立つのは水生昆虫で,個体数が圧倒的に多いのが,タイリクアカネやウスバキトンボのような,打水産卵タイプのトンボのヤゴです。そこにギンヤンマが産卵すると,それらは餌となり,ギンヤンマのヤゴが最強の捕食者として君臨します。 来年の夏には,ヤゴから成虫が羽化します。ギンヤンマを授業時間内に羽化させる方法については,来年の動画で紹介するのでお楽しみに〜〜 おまけです。待てど暮らせど,ギンヤンマはなかなか【人工産卵床】に産卵してくれませんでした。そこで,プールで蠢いているミズカマキリを捕まえて,飛び立つ様子を観察しました。 プールサイドに放すと,水に戻ろうとはせずじっとしています。晴天だったので,体がどんどん乾いていきます。羽まで乾くと,羽を少し広げ,前脚のカマをゆっくりと折り畳んでいきました。畳んだ前脚を斜め前に倒したと思ったら,バッと飛び立ちました。ウルトラマンやスーパーマンとは違った飛行形態です。トノサマバッタも遠く及ばない飛翔能力で,高く遠く飛び去っていきました。スローで見ると,カブトムシとは違って4枚の羽を羽ばたかせて飛んでいきます。水の中ではスイスイと泳ぐことができないのに,こんなにも自由自在に飛び回れるなんてすごいじゃないか!ミズカマキリのことを,かなり見直す観察になりました。

基本情報

分野 分野2 育てたいもの 管理番号 季節 場所 難易度 危険度
生物 生態 探究心 949
夏
広場;
広場
難しい
普通
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