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オオムラサキの蛹化(蛹になる)に潜むミステリーポイント!

  • オオムラサキの蛹化(蛹になる)に潜むミステリーポイント!

材料

オオムラサキの終齢幼虫 飼育ケース 双眼実体顕微鏡

内容

・オオムラサキの幼虫が蛹になる際の,驚きの行動などを知る。
・オオムラサキの幼虫を飼育し,前蛹・蛹になる様子を観察する。
・感動的な行動や器官の様子を目にすることができる。

詳細

蝶の蛹には,2つのタイプがあります。2本の糸で体を支える「帯蛹型」と,逆さにぶら下がる「垂蛹型」です。クロアゲハの蛹は「帯蛹型」で,オオムラサキの蛹は「垂蛹型」です。 アゲハの蛹化(No.945)に続いて,オオムラサキの蛹化についてレポートします。 アゲハは前蛹から蛹になる際,帯糸と腹部先端で体を支えて最後の脱皮をします。 しかし,オオムラサキなどの「垂蛹型」は,腹部先端だけで糸座にぶら下がったまま,最後の脱皮をして蛹になります。 脱皮の最後に,腹部先端の鉤状突起部分を抜き出し,糸座に固定します。そのとき,帯糸がないのに,どうやって体を支えているのでしょう。一旦,宙に浮くなんてことはありません。どうにかして体が落ちないように保持しつつ,鉤爪を皮から抜いて糸座に絡ませなければなりません。 蛹化する様子は何度も観察してきましたが,ここが最大のミステリーポイントでした。 今回,改めてつぶさに観察しました。しかし,残念ながら「謎」は完全には解明できませんでした。 丸々太った終齢幼虫の体色は濃い緑色です。前蛹になると,その体色が透き通ったような美しい薄緑色になります。 普通,前蛹状態になると動かなくなり,そのまま蛹化します。ところが,前蛹状態でもオオムラサキは動き回るので,珍しいタイプだと思います。 やがて蛹化する場所を決めると,腹部先端を固定するために糸座をつくります。吐き出す糸は,アゲハよりも大量で広範囲です。 頭部を下にして,腹部先端あたりで糸座にぶら下がります。この状態から最後の脱皮をして,蛹になります。蛹化します。 まず,前蛹が少し乾いた感じになります。やがて,頭部のあたりの皮に皺がよってきます。脱皮の合図です。 皮の下で体がもぞもぞと動き出し,脱皮が始まります。最初に,可愛い頭部が半分に縦割れして,尖った蛹の頭部が姿を表します。 アゲハの場合は,皮を下へ下へと脱ぎ下ろしていきました。 でもオオムラサキは,皮を上へ上へとたくし上げて行くのです。体を蠕動させることで,皮が少しずつ上へ移動していきます。 そしていよいよ最終段階。皮が上まで脱ぎ上げられると,蛹は腹部先端をクイッと皮から抜き出します。 そのとき,落ちないように体を支えているのは何でしょう。先行研究によると,下向きについている2本のクイ状の物を,皮に引っ掛けているのではないかと言われています。 動画を見ると,確かに後ろに体を反らしては,それを重なった皮に引っ掛け,その隙に鉤爪を糸座にくっつけようとしているように見えます。 しかし,その部分は濡れたように光っていて,全体重を支えられるほど頑丈ではないと感じます。仮にその部分が頑丈だとしても,脱皮したてなので,周囲はとても柔らかい状態です。そこに体重がかかると,耐え切れなくて裂けてしまうと思うのです。 それに,鉤爪を反らした際,クイ状のものも皮から離れているように見えます。 では,一時的に体を支えているのは何なんでしょう。 その1つは,チラッと見える白い糸状のものではないかと考えています。 その正体は定かではありませんが,カブトムシの羽化でも白い糸状のものが見られました。それは,体の内部にまで達している,気門からの空気の通り道(気管)の内面の皮です。 オオムラサキの蛹は脱皮の最終段階で,その糸状のもので体を支えているのではないでしょうか。 鉤爪を糸座に固定した後で糸を引き出し,皮とともに脱ぎ捨てているのではないかと思うのです。 もう1つは,腹節で,重なった皮を挟み込んでいるのではないかという仮説です。先端から3つ目の節で皮を挟んでおいて,そこを支点にして先端部を動かしているように見えます。 現時点では,この2つが,謎を解き明かす鍵ではないかと考えています。 体をクネックネッと大きく振り動かし,脱ぎ終えた皮を下に落として脱皮完了です。 糸座は部分的ではなく,かなり広範囲に広がっています。 糸座に鉤爪(鉤状突起)をからませ,しっかりとぶら下がります。マジックテープさながらですね。 今回の観察で,個人的に新たな発見がありました。昆虫の体表には,幾つかの楕円形が見られます。これは,呼吸で使われる空気の出入り口,気門です。その開口部から,体内に気管が網の目のように張り巡らされています。 気門がどのように機能しているかは「GH5マクロ4K60P アゲハ幼虫 気門の動き」https://www.youtube.com/watch?v=krWUHNh-YJQ が詳しいので,是非ご覧ください。 そのアゲハが蛹化する際には見られなかった気門の仕組みが,オオムラサキの蛹化途中で,はっきりと観察できたのです。 気門の前面は楕円の輪っかのようになっていて,その奥で,穴が開いたり閉じたりしています。全ての気門の開閉が,規則的に連動しています。たくさんの片目が同時に瞬きしているような,キモカワイイ感じです。 不思議なことに,気門の開閉が見られるのは,蛹が濡れたように艶やかで,まだ柔らかいとき(蛹化したてのとき)だけでした。 時間が経つと,蛹は固く丈夫になってきます。そうなると,気門の開閉どころか,位置さえも分かりにくくなってしまいました。 蝶の観察で,最もドラマチックで見応えがあるのは,何と言っても羽化の場面でしょう。 それに対して比較的地味ですが,子ども達には,アゲハやオオムラサキだけでなく,チョウが蛹になる際に見られる自然の妙を自分の目で確かめ,その素晴らしさを心に感じてほしいと願っています。

基本情報

分野 分野2 育てたいもの 管理番号 季節 場所 難易度 危険度
生物 生態 探究心 946
夏
室内;
室内
難しい
普通
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