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授業時間内に,チョウを羽化させるための「羽化抑制法」:アゲハ編

  • 授業時間内に,チョウを羽化させるための「羽化抑制法」:アゲハ編

材料

アゲハの蛹(冷蔵保存) クリップライト(白熱球) 電子温度計 紙コップ 割り箸 セロハンテープ

内容

・アゲハが羽化する瞬間を観察する。
・冷蔵保存していた羽化直前のアゲハの蛹を加温することで,授業時間内に羽化させる。
・アゲハの羽化を観察することで,様々な学びを得るとともに,仲間と感動を共有することができる。

詳細

チョウの「羽化抑制法」は,1977年に矢野幸夫氏が出版された「チョウの実験と観察」にて「強制羽化」として発表されている方法です。羽化直前のチョウの蛹を冷蔵保存しておいて,授業前から加温し始めます。そして授業時間内に,子どもの目の前でチョウを羽化させるという,画期的な観察方法です。 私が追試し始めたのが1992年。お陰様で毎年,子ども達と貴重な感動体験を共有させてもらっています。方法については,時代の変化で少しアレンジしています。 材料が手に入りやすく,失敗が少ないのがモンシロチョウです。しかし,最近では,材料はアゲハに移行しています。それは,モンシロチョウよりも大型なので,ダイナミックで詳しい観察ができること,羽化直前の蛹の様子の変化と冷蔵保存するタイミングの判別がしやすいことなどがあげられます。また,見た目で,モンシロチョウを可愛く見られない(複眼が怖い,毛むくじゃら)子どもが少なからずいることも,理由の1つです。 蛹までは,飼育ケースで,ミカンやサンショウの葉を食草として育てます。 蛹になったら(蛹化),2本の帯糸を切り,尾部先端の糸の土台を剥がします。湿らせた脱脂綿を敷いたカップの中で保存します。 気温によって蛹の期間は変わります。夜9時ごろに様子を見て,黒ずんでいたり,羽の模様が薄ら見えていたりしたら,別のカップに入れて冷蔵保存(一次冷蔵保存)します。蛹を冷やすことで,冬眠状態にするためです。そうすれば,羽化活動はストップします。冷蔵するのは野菜室などで,温度は5〜6℃が適当です。8℃以上になると羽化活動がストップせず,カップの中で羽化してしまいます。 翌朝カップを取り出して,室温で温めます。すると,羽化に向かって蛹の中での変化が再スタートします。 やがて,殻の中の羽の模様などがはっきり見えるようになります。羽は濡れていて,殻にピッタリ張り付いている感じです。 羽化直前には,体と殻の間に隙間ができて乾いたようになります(空隙化)。さらに,服節が伸び切り,蛹が大きくなったように見えます。こうした変化が,羽化直前のタイミングの判別法です。 再び冷蔵庫に入れて,授業時間まで冷蔵保存(二次冷蔵保存)します。 45分間の授業が始まる20〜25分前にカップを取り出し,クリップライト(白熱電球)で加温し始めます。矢野氏によると,アゲハの羽化は,加温開始から平均36分間(ばらつき±7分)だからです。 温度は28〜29℃が適当で,30℃以上になると羽化せず死んでしまう怖れがあります。27℃以下だと,羽化までの時間のばらつきが大きくなるようです。 羽化が始まるまでは,これまでの準備や羽化の様子,蛹の変化や敵によって命を失う場合などを,プレゼンで説明します。 主な観察ポイントの1つは,ストローの口(口吻)です。実は,最初は2つに分かれていて,巻いたり伸ばしたりしながら1本に合わせていくことは,大人も知らない人がほとんどでしょう。 2つめは,縮んでいる羽が,腹部の体液を送り込むことで,徐々に展開していくことです。 羽化スタートのサインは「おしりピクピク」と知らせておきます。腹部がピクピク動いたら,まもなく殻をカパッと押し開けて,チョウが中から出てきます。 さあ,羽化の瞬間です!みんなで「頑張れ!頑張れ!」と応援します。初めて目にする羽化は,子どもの目にはとても感動的です。観察レポートにも,そうした感想が多く書き記されています。 殻から抜け出す前に,液状のものを排出します。幼虫から成虫に変化する際に,不要となったものでしょう。 脚はしっかりしていて,羽化場所を求めて這い回ります。そこへ,「羽化お助け係」の権利をジャンケンで勝ち取った子どもが,そっと割り箸の先を差し出します。チョウが掴まったら,ゆっくりと持ち上げ,机上の真ん中に置き,羽化成功!おめでと〜拍手!! その後みんなで,目を皿のようにして,様子や変化を観察して記録します。 羽化直前まで漕ぎ着けたのに,羽化できずに死んでしまったり,羽化に失敗して飛べない個体がたまにあります。子どもは残念がりますし,悲しみもします。ただ,こうした明暗が自然の中で生き残ることの厳しさを,子どもたちに伝えてくれることも期待しています。 観察記録を書きながら,プレゼンで,敵や病気などによって,100個の卵から成虫になれるのはわずか1頭しかいないことも伝えます。その厳しい現実に,子どもたちから驚嘆の声が上がります。そして,「ハチや鳥は悪者か」と問います。すると,3年生でもほとんどの子どもが,「生きるためには仕方がないこと」だと考えるようです。また,「お肉とか食べている人間も悪者になってしまう」ことに思い至る子どももいます。 生の感動を仲間と共有する体験をできることだけでなく,3年生なりに,食べること,生きることについても真剣に考える機会となるこの羽化の観察を,これからも続けていきたいと考えています。

基本情報

分野 分野2 育てたいもの 管理番号 季節 場所 難易度 危険度
生物 生態 生命尊重 927
夏
室内;
室内
難しい
普通
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