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桜の腹巻き? 松の『菰巻き』に代わる冬の新風物詩・・・

  • 桜の腹巻き? 松の『菰巻き』に代わる冬の新風物詩・・・

材料

マツ サクラ

内容

・松の菰巻きと桜の石灰硫黄合剤塗布を比較する。
・実施している場所を探して取材する。
・松の菰巻きは効果が薄いが,桜の石灰硫黄合剤塗布には効果があることが分かる。

詳細

立春の頃,近所の川の桜堤が,異様に目に映りました。桜の幹に腹巻のようなものが巻いてあるように見えます。これはもしや「菰巻き(こもまき)」?「 松の菰巻き」は見たことがありますが「桜の菰巻き」? 不審に思って近づいて見ると,菰ではありません。白っぽいペンキのようなものが,薄っすら塗ってあるのでした。 松などの「菰巻き」は,かつては晩秋の風物詩としてよく見かけました。その目的を知り,なるほど生活の知恵だなと感心した覚えがあります。しかし昨今,とんと見かけなくなりました。 「松の菰巻き」は,食害する害虫の習性を利用して駆除することが目的でした。晩秋,害虫が越冬のために枝を伝って地上に降りようとします。その途中の幹に菰が巻き付けてあると,冬の寒さから身を守ってくれる格好の越冬場所として,害虫たちが潜り込んで眠りに着きます。やがて冬が去り,害虫が目覚めて動き出すとされている啓蟄(けいちつ)前に菰を外し,害虫ごと焼却処分することで駆除するという寸法です。 しかし,大規模な調査で,菰に潜んでいた昆虫の多くは,害虫を捕食してくれる益虫のクモ類とヤニサシガメで57% 肝心の松を食害するマツカレハの幼虫が,ほとんど入っていないことが分かりました。つまり,「菰巻き・菰焼き」は,松の害虫駆除に効果的ではないということで,各地で廃止が進むようになりました。 それでも観光地などでは,「菰巻き・菰焼き」を継続しているところがあります。もちろん効果が期待できない(逆効果)ことは承知の上です。 かつての「菰巻き」は「筵(むしろ)」を重ねて巻いてありました。虫たちにとっては,この上ない暖かな越冬場所です。しかし今では,うっすい筵一巻きだけです。担当の方にお聞きすると,一巻きなので「益虫もほとんど入っていない」しかも「毛虫は菰の下の幹の割れ目に残っている場合がある」とのことでした。やはり害虫駆除の効果はなく,それを承知の上で,晩秋から早春にかけての風物詩として形を残し,イベント的に実施されているのでした。 私が古い人間だからか「菰焼き」は,心が落ち着く癒しの風景です。日本の江戸時代からの生活の知恵として,外国の観光客の方々にも見てもらいたいという思いも感じられました。 昔ながらの原風景の一つが失われていくのは寂しい気がしますが,致し方ありません。そんなときに見かけた桜の「菰巻き」ならぬ「ペンキ巻き」?に興味をもち,調べてみることにしました。 場所は,知る限りでは,その桜堤だけです。樹木医さんの指導で,4年ほど前から始められたそうです。塗ってあるのは,強い殺虫殺菌効果のある「石灰硫黄合剤」という薬品でした。 2月に入ると塗り始めます。何百本もの桜の幹に,50〜60cmの幅で,茶褐色の液体を刷毛で塗りつけていきます。幹が太くなって割れ目が入っていると,とても手間がかかるそうです。 お一人で担当されているので気の遠くなりそうな作業ですが,1週間ほどで塗り終えられるそうです。乾くと黄灰白色,灰白色になり,遠目には「腹巻き」を巻いたように見えます。 このような処理をすることで,地面に降りて越冬していた毛虫類が,幹を伝って登ってくるのを防ぐ効果があるそうです。この対策前は,あちこちで毛虫が大発生し,木の下が糞で真っ黒になることがあったそうです。 「石灰硫黄合剤」塗布の効果があってか,堤の桜は年々太く大きくなっているように感じます。 見た目の違和感は否めませんが,姿を消した「松の菰巻き」に変わり,新たな冬の風物詩になるかもしれないなと感じています。

基本情報

分野 分野2 育てたいもの 管理番号 季節 場所 難易度 危険度
生物 生態 風物詩 探究心 917 秋冬
秋冬
広場;
広場
難しい
普通
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