ホタルブクロという夏の風物詩のような植物があります。うつむいた釣鐘状の花を咲かせるホタルブクロですが、ちょうどホタルの飛び交う季節と開花時期が重なることから、一説に、この花の中にホタルを入れて遊んだり、持ち運んだりしたことがホタルブクロの名前の由来と言われます。けれども、花の大きさからして、ホタルはすぐに外に飛んで出てしまうでしょう。 むしろ、私は、ホタルブクロの咲く様子が、提灯の形に似ていて、提灯のことを、昔は火垂る(ほたる)と呼んだことに由来する説を支持します。 さて、ホタルブクロは、ホタルのお宿にはなりそうもありませんが、私の子どもの頃には、ネギボウズのついた長ネギを株元からポキリと折り取り、その中にホタルを入れて持ち運びました。ホタルの仮りの宿です。ホタルが飛び交う季節には、子どもたちは誰からともなく、夜の溝端に集い、みんな、手にはネギボウズを持っていました。そして、そのうちの何人かが竹ぼうきを持ち、ゆっくりと大きく振ると、不思議なことに、その中に、ホタルがスーッと飛び込んで来るのです。そのホタルを、それぞれ、手にしたネギボウズに入れて、そっと親指で入口を塞ぎます。 そうすると、夜の暗い中でも、ホタルの明滅に合わせて、ネギボウズの緑色がぼうっと浮かび、美しいヒスイ色に光るのでした。じっと眺めていて飽きることがありません。それでも30分ほどすると、家路に着かねばなりません。たいていは、どの子もネギボウズをそのまま持ち帰り、室内の寝床に吊るされた蚊帳の中にホタルを放ちました。そして、そのホタルの小さな光を眺めながら眠りについたものです。とても美しい想い出なのですが、果たして、翌朝のホタルはどうなったのか思い出せず…また、当のホタルたちはネギボウズの匂いは平気だったのか…本当のところ、どうなのでしょう。ネギボウズも蚊帳も、ホタルにとっては、迷惑なお宿であったに違いありません。 Ane