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「お菊虫は無実の罪人か名誉市民か」

「お菊虫は無実の罪人か名誉市民か」

 先日、ジャコウアゲハを初めて見ました。見かけたのはメスの個体。グレーベージュの地色に、墨で描いたような縞模様。後ろ翅の縁に、三日月型かハート型のような紋が並んでいて、さらに、後ろ翅の突起は長く伸びて美しい。緩やかにひらひら舞うように飛ぶ姿は、イブニングドレスをまとった貴婦人さながら、とても優雅です。一説には、幼虫の食草が強力な毒(アリストロキア酸)を持つウマノスズクサ。成虫になっても、その毒性を体内に留めているため、鳥などの外敵に襲われにくく、急いで飛ぶ必要がないからだと言われています。  ジャコウアゲハは「山女郎」という別名を持ちます。美しい姿と内に潜む毒のギャップが「山女郎」に結びついたようです。ジャコウアゲハの別名と言えば、サナギも風変わりな「お菊虫」という俗称で呼ばれます。「伝説播州皿屋敷」のヒロインお菊さんに因んだものです。お菊さんは、家宝の皿を無くした無実の罪で捕らえられ、姫路城内の松の木に後ろ手に縛られて吊るされ、そのまま斬り殺された悲運の女性です。姫路城内には、遺体を投げ入れたと伝わる「お菊井戸」が今も残ります。この伝説が作られた300年後に、まるで、後ろ手に縛られた女性のように見えるサナギが城内に大発生しました。人々は、これをお菊さんの生まれ変わりと信じて「お菊虫」と呼ぶようになりました。ジャコウアゲハは、お腹側に赤い唇のような突起があり、おちょぼ口のようです。そこを顔に見立てると、髷を解いた長い髪の女性が後ろ手に縛られた姿に見えなくもありません。姫路市は、市政100年を迎えた時、「お菊虫」の言い伝えと、姫路城を築城した池田長政の家紋がアゲハ蝶であることを理由に、ジャコウアゲハを、名誉市民並みの扱い、市の蝶として制定しました。ジャコウアゲハはそのことを知ってか知らずか、変わらず優美に舞っています。Ane

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