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託卵  えっ?自分でヒナを育てない鳥って・・

託卵  えっ?自分でヒナを育てない鳥って・・

 託卵は、ホトトギスやカッコウなどの鳥に見られる習性で、営巣、抱卵、育雛など一切を他の鳥に預ける現象です。簡単に言うと、自分の卵を他の鳥の巣に産み、すべての子育てを他の鳥にさせるというものです。預け先の鳥の候補は自分より体が小さいもの(卵の大きさが相手の卵より小さいと排除されてしまう)、エサが同じ好みのもの・・・と、計算されつくした戦略です。

 子どもの頃、家でたくさんの種類のニワトリやアヒルを孵化させ育てていました。白色レグホンというニワトリは、よく産卵するのですが育雛は苦手らしく、プリマスロックやナゴヤコーチン、チャボなどに自分の卵を預けて孵化させていました。大きさや体色が全く異なる雛を、自分の子ども同様に分け隔て無く育てる姿を見て子どもながらに感心したものです。大きくなって託卵のことを知り、託卵鳥の雛は、仮親の雛や卵を巣外にはじき出し自分だけが給餌してもらい巣立つことに驚きました。この習性に興味を持ち、小鳥の巣から卵を盗み卵焼きにして食べたり違う巣に移したりしましたが、これといって新しい発見はなく全ていたずらで終わってしまいました。ただ、巣から卵を全部採ると、もう卵を産まなくなるのですが、残して採るとまた産み足すことを知りました。

 先日、ナチュラリストの柴田敏隆さんから、託卵に関する興味ある話を伺いました。何とオオタカの巣にフクロウが産卵し、そこにあったオオタカの卵二個とともに抱卵を始めたというのです。巣を自分の卵ごと占領されたオオタカは必死に威嚇して追い出そうとしますが、夜行性のフクロウは昼間は平然としていて、なかなかうまくいきません。それでも、とうとう取り返し、今度はオオタカがフクロウの卵ともども自分の雛を孵したということでした。柴田さんは、夜行性のフクロウの雛が昼行性のオオタカに育てられると、昼行性のフクロウになるだろうかと楽しみに見守ったそうですが、残念ながら、毎日給餌を続けていたにも関わらず、ある日突然死んでしまったのだそうです。その辺り一帯の土地は、虫食いの跡一つない美しい野菜がとれる近郊地帯です。現在の弱毒性の農薬でも、雛にとっては致死量に達し死んだのだろうというお話でした。

 最近、人の世界でも託卵と言えるような話題が相次ぎました。夫婦の受精卵を妻側の母親の子宮に託して出産したニュース、すでに死亡している父親の精子で出産した子どもの法的認知についてのニュース、託卵などと言うと誤解を招くかもしれませんが、これらは、ある意味、人間の世界の託卵と言ってよいように思います。

 ところで、人間は古今東西を問わず、継子いじめに象徴されるように、本当の親子関係で無いと分かると冷淡な態度をとることがあります。ときには、裁判沙汰になるほどの事態も生じます。これは発達しすぎた知のために起こる特有な問題でしょう。鳥の託卵に限らず、動物の世界では、犬が猫の子どもを育てるなど種を超えた大らかな子育てをします。人間も、彼らの大らかな子育てに学びたいものです。

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